健康保険の傷病手当金について

プチ研修

平成27年2月

健康保険の傷病手当金について

今月は健康保険の傷病手当金をテーマに取り上げました。“そんなの知っているよ”という声も多いことでしょう。プチ研修の題材にふさわしいのか迷いましたが、まだよく制度を把握していない方も大勢いらっしゃる気がします。今回、再確認していただければ幸いです。

 

Ⅰ.健康保険の傷病手当金とは

社員が業務以外(私事)で病気になったり、怪我をして働けなくなった場合、会社ではどのように対処されていますか? 一般的には、欠勤が数日間続いた場合、年次有給休暇や代休分を消化した後は給与を支払わないというパターンが多いのではないでしょうか。

そんな時に、社員は休業している間の生活保障として、傷病手当金を請求することができます。つまり、私事の病気やケガで働けず、その間の給料も出ず、かつ医師の証明(労務不能証明)があれば、保険者(健保組合や協会健保)に傷病手当金を請求して受給することができるのです。

傷病手当金の金額は、休業1日につき標準報酬日額の3分の2です(円未満四捨五入)。標準報酬日額とは、標準報酬月額を30で割った金額(10円未満四捨五入)。

支給開始日から1年6ヵ月の間で、同一の傷病のため、労務不能で給与が支払われなければ傷病手当金が受給できます。

ただし、請求する際に色々要件があります。以下ご説明いたします。

 

 ① 休業が連続4日以上であること

休業している日が連続して4日以上なければ対象になりません。3日間連続欠勤したが4日目から出勤したとか、2日休んで1日出勤するパターンを繰り返すとか、このような場合は残念ながら傷病手当金は受給できません。

※これは非常に重要で、休業が連続する3日間を「待期期間」と呼び、傷病手当金を請求する上で必要不可欠な期間ですが、この「待期期間」中は傷病手当金そのものは支給されません。その翌日(4日目)から支払対象になります。なお、「待期期間」は一度完成していれば良く、また給与が支払われていても問題なく、公休日も「待期期間」に含めることが可能です。

 

 ② 給与(報酬)が支払われていないこと

休業中の生活を保障するためのものですから、給与が支払われていると傷病手当金は支給されません。ただし、一部支払われている場合は、その金額(日額分)が傷病手当金の日額よりも低い場合に差額が支給されます。よくあるのは、請求期間にかかる通勤手当を先払いしているため、その分を差し引いて傷病手当金が支払われるケースです。また、役員報酬が支払われている場合も傷病手当金は支給されませんが、役員としての仕事が出来ない等、当該報酬が支給されない取り決めをすれば問題ありません。

 

※過去に、次のような質問をされたことがあります。それはある大きな病院に勤務されていた医師の方の傷病手当金請求だったのですが、事務の方から“○○先生は日給なので、働いていない日はもともと給料がなく傷病手当金の対象にならないのでは”というご質問です。

健康保険の被保険者であれば、日給でも時間給の方でも関係なく支給対象者です(当たり前ですよね)。もともと社会保険の加入要件を満たして加入しているのですから何の問題もありません。仮に週4日勤務の方であっても、所定休日、年末年始などの会社休日も含め、すべて傷病の為休んでいる期間は支給されます(支給開始日から1年6ヵ月までの間で要件を満たした日について)。

また、待期期間を除き請求期間中に代休分が支払われている場合には、あくまで過去の分として支払われたものとなりますので、当該日は傷病手当金が支給されます。

③ 請求期間に対して医師による労務不能証明がいただけること

休業している社員が請求し、かつ会社が給与を支払っていないと証明しても、診察していただいた医師による証明(労務不能証明)が無ければ傷病手当金は受給できません。

これに関しては、最近は見かけなくなりましたが、以前は先付見込証明をする医師もいて、その場合は訂正していただいた事が何度かあります。例えば1月31日に医療機関を受診し、当日に、翌日以降(例えば2月○日まで労務不能)の証明をいただいても、傷病手当金は請求できません。

※実際は、病気や怪我の程度等により先々までわかると思いますが、その場合は、医師の承諾をいただいて、後日に証明書を発行していただくしかありません。

 

また、医師の証明をいただくのはお金がかかります(医療機関にもよりますが大体2~3千円程度)。休業期間が数日しかない場合には、有給や代休残日数等も頭に入れた上で請求の有無を判断されると良いと思います。

<他に注意すること>

請求の際には、請求期間にかかる出勤簿や賃金台帳の写しが必要です(初回申請分)。また、同一の傷病により障害厚生年金等を受給している場合には、傷病手当金は支給されません(日額換算して傷病手当金の日額より下回っている場合は差額支給)。あまりケースは無いと思いますが、出産手当金が同時に受けられる場合も、出産手当金が優先され傷病手当金は支給されません。

社会保険料については、在職中であれば傷病手当金を受給中も当然発生します。本人負担分をいつ、どのように会社が回収するのか取り決めておく必要があります。

傷病手当金は、1年以上被保険者期間がある者であれば、退職後も継続して受給することが可能です(退職後の請求期間について会社証明は不要)。

Ⅱ.傷病手当金という制度に関して思う事

傷病手当金という制度は、会社で働く従業員にとって大きなメリットになると思います。

残念ながら、自営業・無職の方、また社会保険対象外の事業所で働く方々は国民健康保険に加入となり傷病手当金の制度がありません(同業者団体でつくる国民健康保険組合にはあるようですが)。

 

傷病手当金は全額非課税です。標準報酬月額が30万円の方が、休んで30日分受け取る場合の金額は約20万円にもなります。標準報酬月額は、非課税分の通勤費等や残業代も含めた見込金額で算定していますから、思ったよりもらえると感じる方もおられるかもしれません(ただし、そこから社会保険料の本人負担分を会社に支払って頂かなくてはいけませんが)。

※以前は、任意継続被保険者期間も対象になっていましたが、現在では対象外となりました。

 

傷病手当金という制度は、本人のみならず会社にとってもあって良かったと思える制度です。

何故なら、働けなくなった社員に、すぐにクビを宣告できますか? いざという時には傷病手当金があります。1年以上社会保険に加入している者であれば、退職後も継続して受給できるのですから、給与を支払わなくても請求を代行することで、しっかり面倒をみてあげることができます。

 

仮に休職期間満了等で社員が退職してしまっても、本人は傷病手当金を受けながら身体を直し、次に雇用保険を受けながら再就職活動をすることも可能です(雇用保険は、離職日以前2年間『傷病等の期間がある場合には最長4年間』に11日以上の賃金支払基礎日数月が12箇月以上あれば受給資格が発生します)。また、退職後に病気やケガ等で30日以上働くことができなければ、受給期間を最長3年間延長できます。 ← 退職時に延長申請をするよう伝えておくと良いでしょう)。

 

以上