脳・心臓疾患の労災認定基準について

プチ研修

平成26年12月

脳・心臓疾患の労災認定基準について

今月は脳・心臓疾患の労災認定基準についてご案内をいたします。

 

Ⅰ.脳・心臓疾患でも労災認定されるのか?

事業主の皆様には「社員が脳梗塞や狭心症等で倒れた場合に、労災になるのか?」と思われる方もいるでしょう。社員個人の私生活の問題や遺伝的要素も考えられるのに、労災扱いになるのはおかしいのではないかと。

 

ところが、実際に昨年度(平成25年度)の脳・心臓疾患の労災補償状況が公表されており、請求件数784件、決定件数683件、支給決定件数が306件ありました(認定率は44.8%)。

※認定率とは、支給決定件数÷決定件数で算出したもの。

※決定件数とは、業務上・外の決定が行われた件数で、前年度からの案件も含みます。請求から業務上・外の決定に至るまではかなり時間がかかるので、単年度だけでの数字でみることはできません。

別添資料の表1-1を見て頂くと直近5年間の推移がわかりますが、認定率はいずれも40%を超えています。http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11402000-Roudoukijunkyokuroudouhoshoubu-Hoshouka/noushin_2.pdf

 

Ⅱ.労災認定の基本的考え方と対象疾病 (Ⅱ、Ⅲの文章については厚労省パンフレットから一部抜粋)http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040325-11.pdf

脳・心臓疾患は、その発症の基礎となる動脈硬化や動脈瘤などの血管病変等が、主に加齢、食生活、生活環境等の日常生活による諸要因や遺伝等による要因により形成され、徐々に進行および増悪して、あるとき突然発症するものです。

ただし、仕事が特に過重であったために血管病変等が著しく増悪して、その結果、脳・心臓疾患が発症することがあり、このような場合には、仕事がその発症に当たり有力な要因となったものとして、労災補償の対象となります。

 

対象疾病は以下のとおりです。

(脳血管疾患)  脳内出血(脳出血)、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症

(虚血性心疾患等)心筋梗塞、狭心症、心停止(心臓性突然死を含む)、解離性大動脈瘤

 

Ⅲ.労災認定基準(認定要件)

業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患は、業務上の疾病として取り扱います。該当する要件は3つあり、総合的に判断されます。

 

① 異常な出来事 ・・・ 発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと。異常な出来事とは、以下のとおり。

 

(精神的負荷がかかる出来事)

極度の緊張、興奮、恐怖、驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす突発的または予測困難な異常な事態に遭遇した。 → 業務に関連した重大な人身事故や重大事故に直接関与し、著しい精神的負荷を受けた場合など。

 

(身体的負荷がかかる出来事)

緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常な事態に遭遇した。→ 事故の発生に伴って救助活動や事故処理に携わり、著しい身体的負荷を受けた場合など。

 

(作業環境の変化)

急激で著しい作業環境の変化に遭遇した。→ 屋外作業中、極めて暑熱な環境下で水分補給が著しく阻害される状態や、特に温度差のある場所への頻回な出入りなど。

 

<過重負荷の有無の判断>

通常の業務遂行過程においては遭遇することがまれな事故又は災害等で、その程度が甚大であったか? 気温の上昇又は低下等の作業環境の変化が急激で著しいものであったか? 等について検討し、これらの出来事による身体的、精神的負荷が著しいと認められるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断されます。

 

② 短期間の加重業務 ・・・ 発症に近接した時期(発症前おおむね1週間)において、特に過重な業務に就労したこと。

 

特に過重な業務とは、日常業務(通常の所定労働時間内の所定業務内容)に比較して、特に過重な身体的、精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる仕事が該当します。

 

<過重負荷の有無の判断>

業務量、業務内容、作業環境等具体的な負荷要因を考慮し、同僚労働者又は同種労働者にとっても、特に過重な身体的・精神的負荷と認められるか否かという観点から、客観的かつ合理的に判断されます。具体的な負荷要因としては以下のとおり。

・労働時間 ・不規則な勤務 ・拘束時間の長い勤務 ・出張の多い業務

・交替制勤務、深夜勤務 ・作業環境(温度環境、騒音、時差)・精神的緊張を伴う業務

 

③ 長期間の加重業務 ・・・ 発症前の長期間(発症前おおむね6ヵ月間)にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと。

    

恒常的な長時間労働等の負荷が長期間にわたって作用した場合には、「疲労の蓄積」が生じ、これが血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ、その結果、脳・心臓疾患を発症させることから、発症前の一定期間の就労実態を判断します。

 

<過重負荷の有無の判断>

著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したと認められるか否かについては、前記②の過重負荷の有無の判断と同様に行われますが、特に労働時間の評価については以下のとおりとされています。

 

【労働時間の評価の目安】

疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間に着目すると、その時間が長いほど、業務の過重性が増すところであり、具体的には、発症日を起点とした1ヵ月単位の連続した期間をみて

1. 発症前1ヵ月間ないし6ヵ月間にわたって、1ヵ月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いと評価できること

2. おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症の関連性が徐々に強まると評価できること

3. 発症前1ヵ月間におおむね100時間又は発症前2ヵ月間ないし6ヵ月間にわたって、1ヵ月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できること

を踏まえて判断します。

 

Ⅲ.最後に

脳・心臓疾患の労災認定基準(認定要件)については、厚労省作成のパンフレットをもとにご案内しましたが、「異常な出来事」「短期間の加重業務」「長期間の加重業務」の3要件を総合的に判断するとされており、わかったような、わからないような気がされる方もいらっしゃるでしょう。

ただし、具体的に【労働時間の評価の目安】として掲げられている内容もあります。

社員本人の基礎疾患の程度も当然考慮されますが、恒常的な長時間労働は、脳・心臓疾患にかかる労災認定要件の一つをクリアしてしまうことを、事業主および管理・監督職の社員は理解しておく必要があるでしょう(賃金締日ではなく、発症日を起点とした1ヵ月単位の連続した期間に注意)。

仕事を行う上で、社員の体調管理、労働時間管理に充分気を配っていただければ幸いです。

以上