賃金について・・・その2(所定外賃金と法定福利費)

プチ研修

平成21年12月

賃金について その2(所定外賃金と法定福利費)

はじめて社員を採用するとき、賃金の決め方として参考にするのが世間相場です。求人誌、国や地方で出している賃金統計資料などを参考に、この職種、この学歴又は経験年数であれば○○円位でどうかと決めることも多いのではないでしょうか。

では、その社員一人の賃金を決めることによって、関係する諸費用がどの程度かかるのか理解されていますか?

通常、労働費用と言われる総額人件費には、所定内賃金、所定外賃金、特別賃金(賞与)、法定及び法定外福利費、現物給与、退職金積立、教育訓練費、募集費などといったものが含まれます。

この中で、特に気を付ける必要があるものは、所定外賃金と法定福利費であり、退職金制度のあるところでは退職金積立でしょう。特別賃金(賞与)についても含めた方がいいと思われるかも知れませんが、「夏・冬に基本給の○月分を支給する」などと見込金額を社員に確約していないのであれば、事業経営上の理由により減額又は支給しないとしても、客観的合理性が認められます。また、就業規則にその旨が明記されていればさらに合理性が増すでしょう。

 

例. 食品製造業の会社で、新たに1名を月給20万円で採用しました。面接の際に口答で残業がある旨を説明しましたが、特に雇用契約書などの書面では交わしていません。社員の所定労働時間は1日8時間、所定労働日数は月平均で21日です。社会保険(協会健保)に加入していますが退職金制度はありません。また就業規則もありません。

実際に新入社員が働きはじめると、毎日2時間以上の残業があり、土曜日も月2回は出勤しています。

 

(1)所定外賃金・・・・所定労働時間(この会社では1日8時間)を超えて働いた分に対する賃金のこと

単純に所定外労働時間を合計すると、毎日2時間×所定労働日数分21日+土曜日8時間×2日=58時間の残業を行っていることになり、全て法定超労働(1日8時間、週40時間を超える労働)なので、労基法に基づき2割5分以上の割増賃金の支払いが必要になります。 所定外賃金の金額は86,309

※計算方法  月給20万円÷(8時間×21日)×1.25(法定超割増率)×58時間 円未満切捨て

なお、口頭で残業がある旨を説明していますが、書面で通知しておらず、雇用契約書での同意も無く、就業規則も無いため、原則として労基法の最低基準(1日8時間)が適用され、上記の金額となります。

 

(2)法定福利費・・・・・労働保険(労災保険・雇用保険)と社会保険(健康保険・厚生年金保険)の会社負担分

法定福利費の内訳は、給与支給総額に、労災保険料0.65%、雇用保険料0.7%、石綿拠出金0.005%、健康保険料4.085%、厚生年金保険料7.852%、児童手当拠出金0.13%の合計 13.422%を乗じて算出します。なお、法定福利費の算出は残業代相当分も含めて計算します。 法定福利費の金額は37,667  今回は手当の支給がありませんが、支給されている場合は各種手当(通勤手当等)も計算に含めます。

※計算方法  労働保険料等+社会保険料等

(労働保険料等)

総支給額286,309円×労働保険料等料率(労災0.65%+雇用0.7%+石綿0.005%) =  3,879円

(社会保険料等)

総支給額286,309円から、標準報酬月額は28万円。28万円×(健康4.085%+厚生7.852%+児童0.13%)                                  =  33,788円

なお、労災・雇用保険料は業種により料率が変わります。また、標準報酬月額は2等級以上の変動がなければ、毎月賃金額が変わっても1年間同じです。

 

この例では月給20万円の社員を採用することに伴い、給与のみではなく、所定外賃金と法定福利費を合わせて323,976円の会社負担が新たに発生します(実は厚生労働省の統計を見ても、総額人件費は給与月額の約1.5~1.7倍になっている業種が多いのです)。

この例では、時間外労働が多かったのですが、私がお伝えしたかったことは、給与月額そのものだけでなく、トータルで社員の賃金を考える必要があるということです。仮に所定時間外労働が全く無くとも、法定福利費はかかります。また、この保険料等は後から社員負担分も合わせてまとめて支払うため、金額も大きくなります。賞与や退職金を支給している会社では、その分の原資も考えなければなりません。時間当たりの金額に直してみると、その金額の大きさに驚かれることと思います。

企業は人なりとよく申しますが、多大な金銭を支払っている社員には、効率よく働いて、成果を出して頂く必要があるのではないでしょうか。また会社の方でも、必要な契約書や社内規程等を整備しておきましょう。

以上