プチ研修
平成21年11月
賃金について その1(法令上の取扱い)
今月から、賃金をテーマに進めていきたいと思います。賃金は経営者からみれば経費(コスト)であり、労働者からみれば生活の安定を図る糧となるものです。コストを抑えたい経営者と生活を安定させたい労働者にとって、賃金は相反するものとして位置付けられますが、適正な賃金とは両者が納得のいく形に収まるものであり、バランスの取れた賃金が設定できるかが業績を左右するポイントになると考えます。
この賃金に関して、法令上の取扱い~賃金制度に至るまで、賃金に関係する事項についてご案内したいと思います。今月は、まず法令上の取扱いについて述べます。
(1)民法、民事執行法からみた賃金
民法上、賃金という言葉は見当たりませんが、「給料、報酬」といった言葉で一部の規定が存在します。どちらかと言えば、民法は次項で述べる労働基準法で定めていない部分について、問題が生じた際に包括的な面(契約関係、債権債務、公共の福祉等)から判断基準となるケースが多く、賃金という一部分に関して、直接的に使用者と労働者の当事者間を拘束する規定はほとんどありません。なお、民法上の規定があるものでも、労働基準法でそれを上回る規定がある場合には、労働基準法が民法に先立ち優先適用されています。また、民事執行法でも一部賃金について規定された条文があります。
◎民法上、賃金と関係のある規定
第174条(1年の短期消滅時効)、第306条(一般の先取特権)、第308条(雇用関係の先取特権)、第494条(供託)、第510条(差押禁止債権を受働債権とする相殺の禁止)、第623条(雇用)、第624条(報酬の支払時期)
<内容>
・月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権は、1年間行使しないときは消滅する。
・雇用関係の債権は、債務者の総財産について先取特権を有する。
・雇用関係の債権は、給料その他債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた債権について存在する。
・債権者が弁済の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、弁済者は、債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる。
・債権が差押えを禁じたものであるときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。
・雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。
・労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求できない。また、期間によって定めた報酬は、その期間を経過した後に請求することができる。
◎民事執行法上、賃金と関係のある規定
第152条(差押禁止債権)
<内容>
・給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権については、その給付の4分の3に相当する部分(その金額が政令で定める額を超えるときは、政令で定めた額)は差し押さえてはならない。
(2)労働基準法からみた賃金
労働基準法は、労働者保護の中心的役割を担っており、賃金に関する制約が多く存在します。
◎労働基準法上、賃金と関係のある規定
第3条(均等待遇)、第4条(男女同一賃金の原則)、第11条(賃金の定義)、第13条(この法律違反の契約)、第15条(労働条件の明示)、第17条(前借金相殺の禁止)、第24条(賃金の支払)、第25条(非常時払)、第26条(休業手当)、第27条(出来高払制の保障給)、第28条(最低賃金)、第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)、第76条(休業補償)、第89条(就業規則)、第108条(賃金台帳)、第114条(付加金の支払)、第115条(時効)、第119条と第120条(罰則)
<内容>
・国籍、信条、社会的身分を理由に賃金その他の労働条件を差別してはならない。
・女性であることを理由として、賃金について男性と差別的取扱いをしてはならない。
・この法律で賃金とは、賃金、給料、賞与等名称にかかわらず、労働の対償として使用者が支払う全てのものである。
・この法律で定める基準を下回る労働条件を結んでも、自動的にこの法律の基準が適用される。
・労働契約の締結に際し、賃金を含む労働条件について、書面にて労働者に交付しなければならない。
・前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。
・賃金は、法令又は労働協約あるいは労使協定で定めるものを除き、通貨で、直接、全額を、毎月一回以上、一定期日に、労働者に支払わなければならない。※臨時に支払われるもの(賞与等)は除く。
・労働者が、非常時(出産、疾病、災害その他)の場合の費用にあてるため請求した場合は、支払日前であっても、それまで働いた分に対する賃金を支払わなければならない。
・使用者の責に帰すべき事由で労働者が休業する場合は、平均賃金の60%の額を支払わなければならない。 ※平均賃金とは、直近の賃金締切日から遡った3箇月間の総賃金額を、その3箇月間の総日数で割った金額(日給・時給・出来高給者に対する最低保障額あり)。
・出来高払制その他請負制で使用する者について、労働時間に応じた賃金保障を行わなければならない。
・賃金の最低基準に関しては、最低賃金法の定めによる。
・法定労働時間を超えた労働および深夜労働には25%以上の、法定休日労働には35%以上の割増賃金を支払わなければならない。
・労働者が業務上負傷し又は疾病にかかって休業したときは、平均賃金の60%の休業補償を行わなければならない。
・常時10人以上の労働者を使用する場合は、賃金の決定、計算および支払の方法、昇給に関する事項等労働条件を記載した就業規則を定め届け出なければならない。
・労働時間数、時間外・休日・深夜労働時間数等を記載した賃金台帳を作成しなければならない。
・裁判所は、労働者の請求により使用者が支払わなかった賃金と同一額の付加金の支払を命ずることができる。
・賃金、災害補償その他の請求権は2年、退職手当の請求権は5年間行わなければ、時効によって消滅する。
・この法律の賃金に関する事項についての違反は、その内容により6箇月以下の懲役または30万円以下の罰金刑に処せられる。
(3)最低賃金法からみた賃金
最低賃金とは、賃金の最低額を保障して労働条件の改善を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とした制度であり、この法律で最低賃金の決定の仕方等が定められています。なお、最低賃金には、地域別最低賃金と産業別最低賃金の2種類があります。
◎最低賃金法の主な規定)
第3条(最低賃金額)、第4条(最低賃金の効力)、第40条(罰則)
<内容>
・ 最低賃金額は時間によって定める。※ 月給、日給の場合は時間当たりの賃金に直します。また、精皆勤手当、通勤手当、家族手当、時間外・休日・深夜の割増賃金については、最低賃金額計算の基礎に含みません。
・ 使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。
※ 試用期間中の方など一部の労働者は、許可を受ければ最低賃金の減額の特例が受けられます。
・上記内容に違反した場合は、50万円以下の罰金刑に処せられる。
以上、大まかに4つの法令での取扱いをご案内しました。これら以外の法律にも賃金に関する規定は一部ありますが、労働者個々の問題にまで関係してこないため割愛します。
以上