プチ研修
平成20年12月
解 雇
①解雇とは
解雇とは、企業が労働者との雇用契約を一方的に解約することであり、民法には原則として解雇の自由が明記されています。「当事者は雇用の期間を定めさりしときは各当事者は何時にても解約の申し入れを為すこと得」(民法627条)とされ、期間を定めたときであっても「当事者が雇用の期間を定めたるときと雖も已むことを得ざる事由あるときは各当事者は直ちに契約の解除を為すことを得」(同法628条)としているものです。強行法規(刑罰を伴った法律)である労基法においても、一部業務上の休業期間等解雇の制限期間(19条)について規定されているものもありますが、原則として解雇予告(20条)や解雇事由を含む労働条件の明示(15条)、就業規則への明記(89条)のみであり、解雇(解約)自体を一般的に制限してはいません。
ただし、使用者による解雇権の行使については、解雇権濫用法理というものが最高裁判所の判例によって確立されており注意が必要です。解雇権濫用法理とは、昭和50年の最高裁判決[日本食塩製造事件]において「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になると解するのが相当である」と判断され判例法理化されたもので、以降この判例法理により解雇について厳格な有効性判断が問われる例が多くみられます。これが本年3月に施行された労働契約法16条に次のように盛り込まれました。「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」ちなみに、この条文は契約法施行以前の平成16年に、改正労基法の18条の2として規定されたものであり、労基法と違い強行法規でない契約法にこの3月から移行されたことに対して、労働側弁護士から不満の声もあると聞きます。
いずれにせよ、解雇権の行使が権利の濫用とならないよう企業側として準備をし、いざ実行に移す際には段階を経て慎重に行う必要があります。
②解雇の種類
解雇には大きく分けて二種類あり、一つは普通解雇であり、もう片方は懲戒解雇です。普通解雇とは、原則として労働者の能力不適格によるもの、勤怠や非違行為によるもの、企業側のやむを得ない都合によるものなどがあります。例えば上司による指導援助を行っても勤務成績が上がらず、能力・適正不適格として解雇するケース、企業の業績不振により解雇回避努力を行ったが、それでもなお回復に至らずにやむを得ず解雇するケースなどです。営業所や事業部門の閉鎖など整理解雇といわれるケースもあります。
一方、懲戒解雇とは企業秩序罰として、それ以上当該社員を企業にとどまらせることが、事業運営上悪影響を及ぼしかねないものとして企業外へ放り出してしまう最も重い懲戒権の行使のことです。また、放り出された社員にとっては懲戒解雇処分を受けたという事実が生涯、職歴上残ることにもなります。それゆえ普通解雇以上に、原則としてその懲戒権の根拠が就業規則等社内ルールに明記されていなければ出来ない(限定列挙)とする考え方が多数説を占めており、また、当該解雇規定の合理性や処分の相当性・平等性、弁明機会などクリアすべき要件も多いです。
③「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として認められるもの」とは何か
これは事案の内容・程度、当該社員の立場・役割、時代状況によっても違い一概には言えません。ただ、判例をみると雇用契約上の当事者が負うべき「信義誠実の原則」や一般的な「公序良俗」といった基本的事項にまず違反していないかが問われるものといえます。つまり簡単に言えば、企業側として誠実にやるべきことを行った(段階を踏んだ)のか、社会一般的な道徳観念からみて当該解雇処分が問題ないか、という点が重要であると言えます。一部繰り返しになりますが、判例上において解雇権の濫用になるかどうかの判断要素としては、
イ.解雇に合理性又は相当の事由があるか
ロ.解雇権の行使が不当な動機・目的からされたものではないか
ハ.解雇理由とされた行状(非行)の程度と解雇処分との均衡がとれているか
ニ.同種又は類似の事案における取扱いと比較して均衡がとれているか
ホ.一方の当事者である使用者側の対応に信義則等からみて問題はないか
へ.解雇手続は適正に行われたか
といった点がポイントになります。
④法律上の解雇禁止事項
イ.不当労働行為となる場合(労組法7条)
労働者が労働組合員であること、労働組合に加入し若しくは結成しようとしたこと、又は労組の正当な行為をしたことの故をもってする解雇及び労働委員会への申立等を理由とする解雇は不当労働行為として禁止されています。
ロ.業務上の負傷疾病による休業中又は産前産後休業及びその後30日間の解雇(労基法19条)
ハ.労働者の国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇(労基法3条)
ニ.労働基準監督署への申告を理由とする解雇(労基法104条2項)
ホ.解雇予告をしない又はその場合に予告手当を払わない解雇(労基法20条) ただし、30日経過するか解雇予告手当を支払えば有効です。
ヘ.女性であることを理由とする差別的取扱いとなる定年、解雇(均等法8条)
ト.女性の婚姻・妊娠・出産・産前産後休業を理由とする解雇(均等法9条)
チ.労働者が育児・介護休業の申出をし、育児・介護休業をしたことを理由とする解雇(育児介護休業法
10、16条)
ヌ.労働者が子の看護休暇の申出をし、取得したことを理由とする解雇(育児介護休業法16条の4)
子の看護休暇とは、育児介護休業法16条の2に該当する小学校就学の始期に達するまでの子が負傷・疾病にかかった際に、1年度につき5日付与される休暇のこと。